たかまつななを「主権者教育」の講師として呼んではならない・3(たかまつと小黒一正)

 『たかまつななを「主権者教育」の講師として呼んではならない』の第3回である。この回では、たかまつが論拠としてあげることが多い小黒一正についておもに書いていく。

 

 たかまつが提案し、炎上させた「余命投票制度」が小黒の論文に書かれたものであることは、第2回(「余命投票制度」炎上に見るたかまつのトンデモ)で見たとおりである。

 

 また、たかまつは、世代間格差が1億円以上あると繰り返し訴え、世代間対立を煽っているが、実はこれも小黒の論説に依拠したものだ。例えば、次のツイートからたかまつの記事に行くと、小黒の名前が出てくる。

 

 

 ちなみに、「世代間格差 1億円以上」でGoogle検索をかけると目につくのも、島澤諭という名前とともに、小黒である。この二人の次には内閣府の試算がくる。

 

 なお、私は、小黒や島澤や内閣府が出した数字自体を否定するものではない。統計とは計測にあたって設定した定義等により数字が変わるもので、彼らの計測方法ではそれが正しい数字なのだろう。そして、計測方法によって変わるものだから、なぜその計測方法にしたのかということと、その計測方法を踏まえた上でその数字にどのような意味づけをするのかということこそが重要になる。そこで問われるのが、科学者としての態度だ。数字を導き出す過程や、数字に意味づけをするまでの過程で、事実をつまみ食いする恣意的な態度がないか。利害や主観によって歪められた論理的飛躍や歪曲がないか。私は、そうした点で、小黒は極めていかがわしい人物だと捉えている。それには、私が小黒を知った、次のような経緯がある。

 

 私が小黒を知ったのは、随分昔になるが、おそらく、2013年の12月に次の記事を書いた時だと思う。

 

suterakuso.hatenablog.com

 

 記事を全文引用する。

 朝日新聞の記事。

『予算膨張、タラちゃん大丈夫? 日本の課題、グラフ解説』
2013年12月24日16時58分
http://www.asahi.com/articles/ASF0TKY201312240159.html

以下、引用。

 サザエさんに例えましょう。テレビでは波平さんもマスオさんも働いています。これは1970年代ごろがモデルではないでしょうか。今では波平さんもマスオさんも退職し、カツオ君やワカメちゃんが主な稼ぎ手になっているでしょう。

そして遠くない将来、カツオ君やワカメちゃんも退職し、タラちゃんが1人で家計を支えることになります。みんなの老後のためには貯金が必要です。なのに現実には貯金どころか、傷みが目立ってきた家の修理もままならない状態です。

引用ここまで。

解説しているのは、元財務官僚で経済学者の小黒一正・法政大経済学部准教授。

 あのね、政府は国全体じゃないの。だから、財政は家計に例えられないの。例えるとどうなるかは、このブログのトップに置いているエントリーを見てくださいませ。

 

 昔の記事なので、朝日の元記事は既に削除されている。おそらく、会員でなくても無料で読めるところまでを引用したのだと思う。カツオもワカメもタラも結婚したり子どもを授かったりしていないなど、設定が破綻していて、例えとしてどうしようもなく失敗しているが、小黒の、詭弁を用いてでも財政危機を煽りたい強い意思だけは明確に伝わってくると思う。この強い意思を知っているからこそ、私は、小黒がその意思のために、都合よく世代間格差という意味づけをした数字を出し、人びとを煽ろうとしていると考えるのだ。

 

 記事の末尾にある「このブログのトップに置いているエントリー」は、今もトップに置いたままにしている。家族に例えることがなぜ詭弁なのか疑問に思う人は、ぜひ見ていただきたい。

 

suterakuso.hatenablog.com

 

 トップに置くために日付を2099年12月31日にしているが、これは、このブログの初記事である2012年4月8日付の記事を、コピーして置いたものだ。野田政権から第二次安倍政権への政権交代が2011年12月だが、このような記事を書こうと思うようになったのは、記事を書いた時や政権交代より少し前の、野田政権時だったと思う。私は野田政権を、均衡財政に異常にこだわるあまり、一方で消費税増税の三党合意で民主党発足時の公約に反して国民を裏切り、一方で円高・デフレに有効な対策を打てずに経済を疲弊させ、安倍政権が長期政権となるお膳立てをした政権と捉えている。そして、野田政権のそうした方向性を強く後押ししているように感じられたのが、朝日新聞だ。『まだ家計に例えるのね…』という記事は、そのタイトルのとおり、そうした文脈で、小黒よりもむしろ朝日を批判したものだった。トップに置いている『財政を家計に例えるなら…』にも書いているが、財政を家計に例えるのは、朝日の十八番だという印象がある。

 

 ついでに書くと、修正せずにトップに置いたままにしているが、私の例えも、もはや日本の現状にそぐわない部分が出てきてしまっているように思う。それが「家族全体では、世界でも稀なお金持ちです」という部分で、この約11年で、急速にこの例えがそぐわないものになってしまったように思う。

 

 小黒の話に戻ると、とはいえ、この朝日の記事で、小黒の名前は、強く印象に残った。それは、小黒のことを、この記事の例えとその経歴から、原発事故後に、日本を55基の原発というエンジンで飛ぶ飛行機に例えて、原発を止めることに対する人びとの危機感を煽ろうとした、奈良林直という人物と双璧をなすトンデモ御用学者と認識したからだ。奈良林は東芝を経て北海道大教授という経歴だが、小黒は大蔵省を経て法政大准教授(当時)という経歴だ。学界に強い影響力を持つ組織の人間が、通常の学界の階段を踏まずに教授や准教授となり、その権威を利用しながら、出身組織のためにマスコミなどで非科学的な主張をして世論を誘導しようとすることがある。あの事故の後に、奈良林によってそうした姿をまざまざと見せつけられたのは衝撃だった。なので、朝日での小黒の言動を見て、ああ、ここにもいるのかと思ったのだ。御用学者という言葉は、その用法からあまり使わない方がよい言葉になってしまっているが、この二人などは、本来、トンデモ御用学者という言葉に実に相応しい人物だと思う。

 

 その後、実は、奈良林のことは、そんな言動をした学者がいたということは覚えていたが、名前は忘れてしまっていた。その名前を見ることがなくなったからだ。一方、小黒については忘れなかった。それは、その後も継続してその名前を見ることがあったからだが、そうしたことで、小黒を知った時の印象が強まることはあっても、覆されることはなかった。小黒とは、人びとを詭弁で煽り、小さな政府へと誘導しようとするトンデモ御用学者であるというのが、私の一貫した認識だ。この朝日の記事だけでは、強硬な財政再建論者であるといえるだけで、小さな政府論者であるとは限らないではないかと言われるかもしれないが、元大蔵省という経歴からも、消費税増税社会保障の切り捨てとによって所得再分配機能を弱めることで、財政再建を図ろうとする論者だろうと考えるのは自然なことで、実際、その後目にした小黒の論説は、そのようなものばかりだ。たかまつが炎上させた「余命投票制度」などはその最たるものであるし、階級格差はなおざりにして、ことさら世代間格差を強調することもそうだ。

 

 さて、たかまつと小黒との関係だが、私がたかまつのことを知ったのは、小黒の例えを批判する記事を書いた2年半ほど後に、次の記事を書いた時である。

 

suterakuso.hatenablog.com

 

 全文を引用する。

 

 参院戦も近づき、18歳に選挙権が与えられて初の国政選挙ということで、若者向けの選挙キャンペーンも熱を帯びてきた。朝日新聞も、その流れにのった記事をいくつかあげている。そのなかで、これはちょっと有害だなという記事をみつけた。なんか若者に投票を呼びかけるキャンペーンで、世代間対立をいたずらにあおるものが目立ってきているが、この記事も、タイトルをみて、またかと思わされたし、読み始めて、さらに詭弁まで使ってそれをしてやがると思ったんだけどね…。…いつものことだけど、マスコミの「分かりやすい説明」って、たいてい詭弁だよね。…それはさておき、さらに読みすすめると、これ、朝日18番の悲惨な詭弁による「財政再建厨」キャンペーンじゃねーかって、心底むかついた。性質の悪いステマ。有害。若者のリテラシーをあげる気なし。

 それが、次の記事。

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『18歳が知った「シルバー民主主義」 無関心の怖さ納得』
吉沢龍彦 聞き手・仲村和代 田渕紫織 2016年7月3日05時05分

http://www.asahi.com/articles/ASJ714JGXJ71UPQJ00F.html?iref=comtop_8_07

 18歳、19歳の選挙デビューに向け、いろんな試みをしています。「お嬢様芸人」たかまつななさんの「せんきょの学校」をネット中継し、18歳のシンガー・ソングライター井上苑子さんに今の思いを聞きました。高校生の発案によるフォトコンテストも開催中です。政治のイメージをポジティブなものに変えようという試みです。

■「投票行かないと…」シミュレーションゲーム

 18、19歳の有権者がどれだけ参院選の投票に行くかに注目が集まっています。過去の選挙では若い世代ほど投票率が低い傾向が出ています。ちなみに3年前の参院選では、20代は33%、30代は44%、40代は52%、50代は62%、60代は68%でした。

 若い世代が投票に行かないと、どんな影響があるのか。Voice1819の一環で、テレビ番組などで売り出し中の「お嬢様芸人」たかまつななさん(22)の、笑える政治教育をネタにした「せんきょの学校」を動画配信サービス「ツイキャス」でネット中継しました。生徒役として18歳、19歳を代表して、大学生シンガー・ソングライターましのみさん(19)と、ジャニーズの嵐の大ファンという専門学校生さとえりさん(18)が参加しました。ツイキャスで録画が視聴できます。

 たかまつさんが始めたのは、「逆転投票シミュレーションゲーム」。「50歳以下の選挙権は廃止する」という政策に賛成か反対か、投票で決着させようというゲームです。

 その場にいた記者を含め、18歳高校生、20代会社員、40代主婦、60代会社員、80代高齢者という役割に分かれた5人が投票します。50代以上は自分たちの利益が膨らむであろう「50歳以下の選挙権廃止」に賛成し、50歳未満は反対します。

 人数だけなら、3対2で反対多数です。でも、実際の社会では年代ごとの有権者数が違います。その実勢に合わせて80代には40点、60代には90点、40代には90点、20代には60点、10代には10点を与えます。点数の合計だと、賛成130点、反対160点と、なお反対が優勢です。

 ここで、たかまつさんが尋ねました。「でも、みんなが投票に行くでしょうか」

 「あっ!」「そういうこと?」。生徒からつぶやきが漏れます。

 10代の投票率はまだ分からないので、仮に50%としておきます。それ以外は過去の選挙での実績を当てはめます。20代30%、40代50%、60代70%、80代60%として先ほどの点数にかけ合わせると――。

 賛成87点、反対68点。賛否が逆転し、むちゃくちゃな政策が通ってしまいました。

 「これが実際の世の中で起きていることなんですね」とたかまつさんは解説します。さらに、舞台に立つ時に客層を見て受けそうなネタを選ぶと自分の体験を話します。「政治家も客層、つまり有権者を見て政策を変えて当然ではないでしょうか」と話を締めくくりました。

 少子高齢化にともない、高齢者層の政治への影響が強まることは「シルバー民主主義」と呼ばれます。実際、日本で1人が一生の間に政府に払うお金(税金など)と、政府から受け取るお金(年金など)の収支は、年代ごとに大きな差があると言われます。60歳以上は4千万円のプラス、20歳未満は8千万円以上のマイナスという試算があることを、たかまつさんは紹介しました(小黒一正・法政大学教授の試算)。

 もちろん現実の政治は、世代間でいがみあい、税金を取り合っているだけではありません。お互い力を合わせ、支え合い、よりよい社会を作っていくことが大切です。

 そのためにも、まずは投票に行くことが大切――。これがたかまつさんのメッセージでした。

 「深い……」と授業中につぶやいていたましのみさん。「私だけでなく、まわりを巻き込まないと。みんなで選挙に行こうと呼びかけます」と話しました。

 さとえりさんもこう言います。

 「政治や選挙に関心を持たないと、ほんとコワイんだなって思いました。自分だけがそう思っていても仕方がないので、友だちも誘って投票に行きます」(吉沢龍彦)


≪続きの引用は省略≫


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…あのさぁ。なにが、「深い……」だよ。申し訳程度に、「もちろん現実の政治は、世代間でいがみあい、税金を取り合っているだけではありません。お互い力を合わせ、支え合い、よりよい社会を作っていくことが大切です。」なんて、優等生なこと言っているけどさ。。。その前に、「これが実際の世の中で起きていることなんですね」なんて、断定調で言って、そんなんにはじめて「深い……」なんて言うような「若者」たち誘導しておいて、そんなん言っても、そりゃあんまり意味ないでしょ。とはいえ、そこはまだいいよ。確かに、そうでもして関心を呼び覚ます必要もないとはいえないし、いちおう、申し訳程度のことは言ってるしさ…。

 でも、これに、よりによって、「財政再建厨」くっつけるか?! 元財務官僚、あえてこの言葉を使うけど、御用学者、小黒一正だぜ! 小黒については、これ↓を参照ね。

『まだ家族に例えるのね…』
http://d.hatena.ne.jp/suterakuso/20131224/1387895160

ああ、小黒が世代間格差のことを言っているのは、まだいいんだけどね。ただ、これ、社会保障切り捨てのステマだよね。本当の格差のことじゃないよね。いや、小黒や朝日が、高所得者や資産家の負担を求めつつ、社会保障のなかでも元高所得者や資産家の社会保障の切り捨てだけを求めるってんなら、そりゃ、すばらしいけどさ。どうせ、こいつらが気にしているのは、自分たちが安定してラグジャリーに生きれるシステムの維持だけでしょ。


 こんな「主権者教育」より、今、若者に一番求められているのは、資産家やマスコミや金融機関や大企業エリートの人間なんかの生活がどうなっているのか、いっぽう、例えば、非正規の若者や、福祉関係の職につく若者たちの生活はどうなっているのか、そういう現実をまざまざと直視させること、そして、それが「政治」によってつくられるシステムの上に成り立っているということを知らせること、それこそが絶対に必要だと思うけどね。

 

 この朝日の記事も、6年半以上も前のものなので、既に削除されている。たかまつがこうした活動をいつ頃はじめたのかは確認していないが、朝日の記事に「テレビ番組などで売り出し中の「お嬢様芸人」たかまつななさん」とあるので、少なくとも本格的に活動しはじめたのは、この頃ではないかと思われる。その頃から既に、たかまつは、学者である小黒の権威を梃子とする誘導を行っていたのだ。それを今もなお続けているだけでなく、新たにトンデモな「余命投票制度」を小黒に代わって提案してもいる。たかまつの主張が、小黒の論説に、異様なまでに強く結びついていることが分かる。そういえば、6年半前の記事の「20代30%、40代50%、60代70%、80代60%として先ほどの点数にかけ合わせると――」という下りなどは、「余命投票制度」を彷彿とさせる。それはともかく、まるでたかまつは、小黒の論説の、若者への刷り込み担当であるかのようである。

 

 上に書いたように、私はもともと、財政再建厨で、人びとを小さな政府に誘導しようとする朝日を批判していて、次いで、そんな朝日を御用学者としての利害からトンデモな詭弁で援護しようとする小黒を非難するようになった。なので、この記事を見た時には、今度は、若者向けに「分かりやすく」誘導するために、こんな人間を出してきたかと、なにより朝日に腹が立った。なので、批判の矛先も、たかまつよりは、朝日や小黒に向けた。それは上の記事を読んでいただいても伝わるのではないかと思う。

 

 しかし、今となっては、たかまつに対する認識が甘かったと思う。こんな人がいるんだ程度に思っていたたかまつが、先の参院選前には主要新聞に幾度も登場し、一方で代表的な主権者教育の講師として全国の学校を巡業している。そして、たかまつが垂れ流す情報の悪質さは増している。だからこそ、上の私の記事で朝日や小黒に向けた批判を、改めて、たかまつに強く向けなければならない。たかまつの例えやゲームといった「分かりやすい」手法は、分かったつもりにさせて本質から他のものへ目を逸らさせる詭弁だ。たかまつが論拠とする小黒一正は、いかがわしいトンデモ御用学者で、それを権威ある学説であるかのように垂れ流す手法は、詐欺的な手法だ。そして、たかまつは、なんのことはない、これらの刷り込みによって、若者を小さな政府へと誘導しようとするハーメルンの笛吹きだ。それを理解した上で、たかまつを「主権者教育」の講師として呼ぶのか判断していただきたいと願うものだ。