たかまつななを「主権者教育」の講師として呼んではならない・1(たかまつの「余命投票制度」)

 「主権者教育」というと、割とすぐに思いつく名前が、たかまつななではないだろうか。18歳選挙権が導入された2016年頃から、若者の立場に寄り添って投票を呼びかける活動を行っている人物としてマスコミで取り上げられるようになり、全国各地の学校で講師として講演を行っているようである。地方(山口県)在住の私も、たかまつが高校で講演を行ったことを、地元のニュースで見たことがあるように思う。

 

 しかしながら、私は、たかまつはこうした講師として呼んではならない人物だと考えている。それは、たかまつが、若者たちに、親しみやすい雰囲気で中立の立場から、自ら考え、投票することを訴えかけているだけであるかのように装いながら、彼らに、党派性のある特定の方向性の政策へと誘導するいかがわしい情報を、刷り込もうとするからである。それも、詭弁を弄しながら。その方向性とは、一言でいえば、いわゆる「改革路線」ということになるであろうか。

 

 たかまつのこうした傾向や、時にみせる卑怯さ、厚顔無恥さはツイッターやブログ等で政治的な話をする人の間ではけっこう知られたことだろう。それゆえ改めてそうする必要性が感じられないせいか、たかまつへの警戒を呼び掛けるまとまったブログ記事を見かける印象がない。しかし、「主権者教育」となると、それを実際に企画するのは、ふだんから「政治性のない態度」を実質的に課され、それを内在化している人も多い、教員や公務員などの教育関係者である。そうした人たちが「主権者教育」を企画する際に、たかまつを講師として招くことが検討されたとしても、それを思い止まらせることになるものが、ある程度まとまったものとしてあるべきではないか。僅かばかりでも、そうしたことの一助となれないか。これが、これから書こうとする一連の記事の主旨である。どうか、たかまつななを「主権者教育」の講師として招かないでほしい。

 

 こうした趣旨であるので、まず最初に、たかまつのひどさが露呈した騒動から書くのが適当だろう。それが、ABEMAの『NewsBAR橋下』という番組でのたかまつの発言に始まる、「余命投票制度」騒動である。ABEMA TIMESに、番組の当該回について次の記事が残されている。

 

times.abema.tv

 

 しかしながら、どういう訳かこの記事には、

たかまつが「理にかなった案だと思う」と話す「余命投票制度」とは、次の様なものだ

と書かれているのに、その肝心の「余命投票制度」自体の記述はない。橋下徹の発言がなぜか重複して書かれていたりもする。当時のたかまつのツイートにはyahoo!ニュースに掲載された記事へのリンクが貼られていたが、yahoo!ニュースは掲載期間短いので、今は記事が削除されている。そこで、改めて次の番組動画で直接、発言を確認した。

 

https://abema.tv/video/episode/89-77_s10_p177?utm_campaign=abematimes_p2_link_article_photo_10027531_ap_free_episode_89-77_s10_p177&utm_content=10027531&utm_medium=abematv&utm_source=abematimes&utm_term=683079858.1602759673

 

以下、番組動画から、たかまつによる「余命投票制度」についての発言部分(橋下等、他の出演者とのやり取りの部分を除く)を文字起こしする。

 

どう考えても人口比から考えると、若い人は人口が少ないので、もっともっと選挙に行ってくれればもちろん若者の声とか影響力って大きくなるんですけれども、人口が少ないから限度があると思うんですよね。なので、若い人に影響力を持たせるために、一人一票の原則を変えようというものです。ま、日本の平均寿命、例えば100歳くらいまで上がっていくと思うんですけど、私の頃は。で、100歳だとしたら、そこから自分の今の年齢を引いた分を投票のポイントにする。

 

そうしたら政治ももう1年先とか5年先の話じゃなくて、それが50年先の日本の未来とか語っていくと思うんですよね。若い人にむけて、だって、ねぇ、話していかないと通らないので、どんどんどんどん若者政策ってのが増えて行くと思いますし、有権者の人も投票する時に未来を考えると思うんですよね。自分が今何ポイントだというところから。だから投票の質も上がるんじゃないかなと思う。

 

やっぱり若い人の影響力とか若い人の意見が通るとかすごい大事だと思っていて、例えば、日本だと、こう、自分が今70歳だったら、考え方が変わるなって思うこと、私たちもいっぱいあるんですよ。例えば、Uberとか、Airbnbとかって、自分が70歳だったら、そんな新しいものいらないよって思うと思うんですよね。でも私28歳だから、いやUberとか、Airbnbとか世界中でやってんのに、なんで日本はもっと導入してくれないの。でも、それを、ホテル業界とか例えばタクシー業界の人たちが、困ってしまうから、じゃ、やめようと。それは1年後の日本を考えたらいいかもしれないけど、50年後の100年後の未来を考えると、世界から観光客が減ってしまう。それって日本の、あの、経済的にはよくないよねって判断ができると思うんですよね。でも今はそうじゃないから、Uberもやめよう日本では。そんなにされてるってことだと思うんです。

 

これ、だから、移行期間が問題なんですけども、移行期間さえクリアになれば、みんな平等なんですよね。こう、だんだん減っていく訳なので。みんな、なんか、そういう世代間の格差はあるように見えて、一生で見るとないので、そういう意味では、平等ではあるんですけれども。

 

 こうした発言を受けての橋下の発言は、上にリンクを貼ったABEMA TIMESの記事に書かれている。記事から引用する。

 

 橋下氏は「本当に日本を強くしようと思えば、国を動かしている中心メンバーのいる世代に投票権を与えていく仕組みは必要だと思う。僕も50歳を過ぎて、政治的なエネルギーは衰えてきているし、もっと30代、40代に頑張ってもらいたい。ただ、高齢者の側には、“わしらが今まで頑張ってきたから日本はここまで来た。わしらの意見こそ聞いてくれ”という人たちもいる。そこはたかまつさんの案が定着するまでの移行期間、ポイントを上積みしてあげるといった方法を取り入ればできるかもしれない。たかまつさんの案よりももっとラディカルだけれど、政治的に活動できる期間ということで、例えば55歳ぐらいで選挙権を切ってもいいんじゃないのと思う。

 

 これを受けてたかまつは、次のように発言した。こちらは再び番組動画から文字起こしする。

 

 いや、でも、本当にそういうことに近いことが必要だと思いますね。じゃないと、政治が若い人のほう向いてくれないので、私前回の選挙の時に、あの、党首に、すごい、インタビューするっていう企画をユーチューブでやって、で、7政党の党首にお会いして、それで、シルバー民主主義どう思ってますかって言っても、どこもそんなに歯切れがよくないわけですよね。シルバー民主主義解消してください。若者がこの番組見てるんです。どう思いますかって言っても、みんななんか、シルバー民主主義ってのは世代間対立を煽るために作った言葉で、そういう言葉を使うこと自体がよくないんですって言われたりとか。いや、差別はあるんですよ。1億円以上あるってのはデータも出てるのに、そういうこと言われてしまうっていう、なんか、差別があることに対して声をあげるのに、そんな差別言うなって言われるのってすごいおかしいなと思って。

 

 これらの発言で批判すべきことはたくさんある。いや、非難すべきこともあるし、なにを言ってんの?と言うべきこともある。ただ、それらをしなくても、少なくともたかまつが、党派性のない立場から、生徒たちに自分たちで考えることだけを訴える人物などでは到底ないし、人類の多年の努力によって築かれた民主主義の理念から逸脱した主張をする人物であることは分かるだろう。引用が長くなってしまい、記事も長くなってしまったので、いったんここで記事を切ろうと思う。これらの発言に続く騒動については、次の記事で書きたい。

 

 ただ、たかまつの発言を文字起こしした最後の部分についてだけは、ここで確認しておきたい。差別はある、1億円以上あるというが、では現在の高齢者たちは、その1億円を自分たちの世代だけで消費し、あるいは墓にでも持って行くのか(そもそもその「1億円」の根拠に触れられていないことは、ここではおいておくが…)。まさか。それぞれその多くを、自分たちの身内で享受し、身内のために遺していくというのが実像だ。つまりは、これを差別と言うのなら、政府の政策の恩恵にあずかり、より多くを享受し、より多くを身内に遺すことができる者と、そうでない者との格差こそが、差別なのである。政府が後世に残る「借金」をしてまで恩恵を与えたことが差別と言うのなら、その恩恵を受けている者たちからこそ、今すぐそれを回収すべきなのだ。しかるに所得税最高税率は引き下げられ、それどころか株式投資で得た利益には、どれだけ利益を得ようとも20%の税しか課せられない。NISA非課税枠拡大というものもある。孫への生前贈与も教育資金なら非課税という、まさしくこの差別を象徴する措置も、恒久化が企てられている。いっぽうで、借金をして生活を送る者にも課せられる消費税の税率は引き上げられる。これは紛れもない階級対立だ。それを嘘の対立にすり替えるために世代間対立を煽る。たんに煽っているのではなく、階級対立を世代間対立にすり替える。たかまつのしていることは、そういうことなのだ。現にかくも「差別」の解消に熱心なたかまつが、再分配の強化に熱心だという話は、寡聞にして知らない。