転載 (みをつくし語りつくし)勝部麗子さん:6

 第6回です。まずは、登録なしで読めたところまでの転載です。

http://digital.asahi.com/articles/ASJB54R4QJB5PLZU006.html?rm=1063

神田誠司
2016年10月26日11時38分
■コミュニティーソーシャルワーカー
■ごみ屋敷 孤立の象徴
 2004年、コミュニティーソーシャルワーカーになって取り組んだことの一つが「ごみ屋敷」の問題です。
 そのころ、気になっていた70代半ばくらいのおばあさんがいたんですね。私もときどき行くハンバーガーショップでずっと夜遅くまで1人で座っていて。なんかさみしそうな人やなって。
 ある日、ケアマネジャーから「介護保険の手続きのために何度訪問しても会えない人がいる」と相談があって、団地の4階にある自宅を一緒に訪ねました。
 ドアを10センチくらい開けて、顔を見せたのがそのおばあさんやったんです。「きょうは忙しいから」ってドアを閉めはったんですけど、その瞬間、ものすごいごみの臭いがしたんですね。そうか、こういう暮らししてはったんやと思いました。
 放っておけなくて、何度も通うんですけど「恥ずかしいから」と家に入れてくれません。3カ月くらいたって、やっと入れてもらったら、部屋中に胸の高さまでごみが積まれていて。その中でいろいろ話しました。
 「ハンバーガーショップでお見かけしますね」と言ったら「あそこにいたらさみしくないの。みんなの声がするから」とおっしゃって。もとはOLで、ずっと独身で天涯孤独なこと、足腰が弱って1階までごみを持って行けなくなってたまってしまったこともうかがいました。
 それから何度も「ごみを捨てる手伝いをさせてもらえませんか」って持ちかけて、「そこまで言うんやったらお願いするわ」となって、ボランティアの皆さんとごみ出しを始めました。すると、ごみの山の下から10年前の新聞とかが出てくるんです。
 その時に思ったんですね。10年間も訪ねてくる人がひとりもいなかったんや。ごみ屋敷は、社会的孤立の象徴なんやって。
■片付けて終わりでない
「近所のごみ屋敷をどうにかしてほしい」。ごみ屋敷を1件解決すると、私たちコミュニティーソーシャルワーカーのもとには、そんな相談が次々と寄せられるようになりました。
 ほとんどが近隣の住民からです。「悪臭がひどくてかなわん」「家の前までごみがあふれて美観を損なう」「ゴキブリが増えて不衛生や」といった内容で、「地域に困った人がいる」という訴えです。「どこか施設に行ってくれたらええのに」っていう方もいて。こうなると排除の論理ですよね。
 でも、何件もごみ屋敷の片付けにうかがって住人と話すうちに思うようになったのは、周りから「困った人」と言われている人は、本人が「困っている人」なんやということでした。

以下、登録しなければ読めない部分の要約です。

●老いた親の介護とか、肉親を亡くした喪失感とか、病気とか、誰にだって起きることでつまずいて、誰も助けてくれる人がいないケースがほとんどだった

●困っていることを聞いて、病院に連れて行ったり、生活保護につないだりするが、根っこの問題を解決しなければ、またごみをためてしまう

●だからヘルパーや話し相手のボランティアに訪問をお願いするが、地域の住民がその人を見守り、支えてくれるのが一番だ

●ごみ屋敷を片付けると言っても、まずは門前払い、話ができても断られる、と、簡単ではないので、コミュニティソーシャルワーカーは何度も何度も訪問する

●その様子を見て、近所の人が集まってくることがよくある

●「どうにかしてほしい」「施設にでも入ってくれたらええ」と排除の論理の話が大半だが、どこにも事情を知っている人がいて、それを話し始める

●事情を知ることで、排除の側にいた人にやさしさが生まれるという現場に何度も立ち会った

●それでも排除の側に立つ人はいるので、ごみ屋敷の本人を守るような「盾になる住民」を見つけるようにしている

●同じ地域の住民であることが大事である

●ごみ屋敷の片付けは、必ず住民ボランティアや小学校区の福祉委員、民生委員の人たちと一緒にする

●十数人で片付けを始めると、近所の人たちが表に出てきて、同じ地域に住む人たちが懸命に片付けている姿を目にすることになる

●片付いていく様子を見ることで、排除の論理を口にしていた人が協力の言葉を口にするようになり、排除から包摂へと地域の雰囲気が変わる

●住民がごみ屋敷の片付けを手伝う「豊中方式」は、小さな成功体験の積み重ねによって、地域のことを地域で解決する住民力が育っていることによってできていると思う